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2013*01*18 Fri
00:14

「曇り」「糸」「禁じられた物語」を使った三題噺

その日は生憎の曇り空で月明かりは一切差し込まない夜だった。
 いや、生憎というよりもこの場合はうってつけというべきなのかもしれない。
 天気予報を見る限りでは降水確率はさほど高くはないものの、空気に湿り気を感じる。もしかするとそのうちポツポツ降り始めるかもしれない。
 天気予報を確認したにも関わらず折りたたみ傘を鞄に入れてこなかった自分を織部梨都は胸中で戒めた。
 行き帰りは車に乗せてもらうため何ら問題はないが、目の前に建っているとっくの昔に機能停止し風化してボロボロになった廃病院。いくら規模の大きい病院だろうと穴ボコだらけの廃れた建物では雨風を凌ぐ事はまず不可能だろう。
 これでは新しく買った水色のワンピースも、せっかく時間を掛けてセットしてきた髪もメイクも台無しになる。八月最終日夏の思い出にと大学の友達に誘われて参加したダブルデート的な肝試しだったが、開始する前からテンションがた落ちであった。
だがこの時、適当な理由をつけてここに残るか、もしくは一人で帰路についていればこんな後悔など――しなかっただろう。

 「こっちだ急げ!」
 髪をダークブラウンに染めた若者、新垣が叫びながら後列の三人を誘導する。
後続にいるのは織部、同じクラスで金髪ギャル風ファッションの町谷と、黒髪をワックスで固めツンツンに立てた一つ上の先輩である深森。四人は三者三様に荒げた声を上げている。
 その悲鳴にも似つかない声は明らかに震えており、この状況下が彼女らに危機感を与えていることが簡単に想像できた。

 肝試しを始めた最初の頃は四人で和気あいあいと面白がっていたが、一時間ほど経過した。三階まで上がりフロアを一周、何事も起きないことに残念がりながらそろそろ帰ろうかと誰かが言いだしたその時――アレが現れた。
 懐中電灯で照らしても靄がかかったように姿が見えず、ただそこに何かがいるとしか分からない。気配のみが一行へゆっくり近づく。
 期待はしていなかったが、予想だにしていなかった現象に一行は戸惑い恐怖に震え上がった。

 織部はひび割れた壁から染み出た雨が床に作る水たまりで足を滑らさないよう進める足一歩一歩に神経を集中させる。
 だが、気をつけて足を進める織部とて一度も滑ることなく走ることは出来ない。幾度となく彼女らは水溜りに足を取られ、転倒しないまでも走る速度を制限せざるを得なかった。
 四人は三階の病室が並ぶ廊下を駆け抜ける。一刻も早く階段を見つけ、一階に降りなければならない。そうしなければ、自分たちは後ろから迫ってくるアレにやられる。そう本能が警鐘を鳴らしていた。
 本当はつい先ほど階段を新垣が発見していたのだが、壁が崩れており通行は不可能だった。よじ登って乗り越える手も考えたのだが、瓦礫がさらに崩れる危険性は捨てきれず今に至る。
 こちらが全速で走っているにも関わらず、後ろからピチャピチャと水溜りを踏み歩く音は離れる気配がない。距離を詰めるでもなく、間合いを空けることもなく常に一定の距離をつかず離れず。まるで獲物が疲れるのを待ってから狩るハンターのようだった。
 しかし、暗がりに隠れ姿は見えずどんなものなのかは窺い知れない。人なのか、動物なのか、それとも――どちらでもないものか。
 織部が恐怖を押し殺して後ろのアレを分析していると、前を走っていた新垣に突然腕を掴まれ十字路を左に折れた。
 だが、織部たちの後を走っていた深森と町谷はそのまま十字路を真っ直ぐ走っていく。
この状況で散り散りになってしまってはまずいのではないかと一度歩幅を緩め、新垣の腕を引き訴える。
 顔を振り向かせた新垣は明からさまに強ばった笑顔を浮かべ、
 「逆に一箇所に固まって階段を探してもジリ貧になる。二手に分かれたほうが効率もいいし、片方が囮になればもう片方の探索も楽になるはずだ」
 と、効率の良さそうに聞こえる作戦を答えた。
 それではどちらが囮になってどちらが探索をするのか。
 決まっている。直進方向へ進んだ目視のできる深森たちが囮で、視認できなくなったこちらが探索なのだ。
 どこで別れた二人と話し合ったか定かではないが、新垣は全員の安全よりも自身の安全を最優先事項に据えたということ。
 作戦内容を聞いた織部が苦虫を噛み潰したような顔をするも、新垣は気づく素振りを見せずに再び速度を上げた。
 瓦礫を避け、身を隠しながら探索した数分後、ようやく二階へと降りる階段を見つけた。
 「新垣さん、早く二人を呼びましょう」
 織部が白いスマートフォンをポシェットから取り出し、町谷の電話番号を探そうと画面に指を這わせようとするが、
 「ダメだ。まだこの階段の先が安全とは限らない。安全確認が取れ次第あの二人を呼ぼう」
 と、織部の行動を静止させ階段を降りてゆく。
 この男は確実にあの二人を見捨てるつもりだとはっきり見て取れたものの、この場で一人になることはさすがに危険だと判断し、新垣の後を追う。
 だが、別れた二人を見捨てることをしない織部は階段を見つけた大まかな場所と目印となるであろう消化器やベンチなどいくつかのものを町谷にメールで知らせておいた。常に携帯を手でいじっている町家なら気づいてくれるという判断だ。
 なるべく早くメールに気づいてくれることを祈り、スマートフォンをポシェットに戻し二階へと降りた。
 階段脇に貼られていた地図を見る限りでは病室が大半を占めていた三階とは異なり、二階はナースステーションや倉庫、仮眠室など職員立ち入りの場所が見受けられた。
ある程度地図を把握し視線を戻すと、新垣の姿が消えていた。
 「あらが――ふむっ」
 思わず反射的に大きな声で名前を呼ぼうとしてしまうも、咄嗟に口を手で覆う。こんな静かな場所で声を響かせればアレにわざわざ居場所を教えるようなものだ。
 いや、逆にこちらの居場所をバラせば注意が移りあの二人が階段を探しやすくなるかもしれない。とは言え、あの二人がすでにアレを巻いている可能性もある。自分の勝手な想像だということは重々承知しているが、一人でいる今は迂闊な行動に出るわけには行かなかった。
 「どっちにしたって早くあの人と合流しなきゃ」
 汗で頬に張り付いた髪を払い、ナースステーションが目の前にある広々としたフロアへ足を踏み入れた。
 「え……」
 刹那――体が沈んだ。
 正確には地面に着いた右足が老朽化した床を踏み抜いた。
 床を完全に踏み抜いた瞬間、左足で地面を前方へ蹴り、無理矢理右足を救出する。そのまま前のめりに倒れ込んだのは言うまでもないが、床に埋まったまま身動きが取れなくなるよりかはマシだろう。
 「痛っ……」
 立ち上がるなり、右足に鋭い痛みが走る。どうやら足を捻ったようだ。
 しかし、ここで呆然と立っているわけにはいかない。とりあえず、どこか近くに身を隠さなければ。
 「最悪……こんな時に」
 痛さのせいか、心細いせいか、それとも恐怖に煽られているせいなのか、瞳に涙が浮かび始めた。
 涙を手の甲で拭い、痛い右足を引きずりながらナースステーションへ向かう。ここでしばらく隠れて助けを待つことにした。
 なるべく発見されにくい奥に設置されているデスクの下に潜り込もうとしゃがみ込む。その際、デスクの角に頭をぶつけ、デスク上の放置された書類やら文房具やらが落下してきて頭を直撃する。
 足の痛みに慣れ始めた矢先、頭に鈍痛。思わず頭を抱えてうずくまった。
 「ん? あれ?」
 涙目になっているせいで視界がボヤけるが、足元に転がった書類に混じって茶色い本が落ちていたのを発見した。これが鈍痛の正体だろう。
 再度涙を手の甲で拭い、日記帳を手に取る。埃にまみれて所々黒ずんでいるが、まだ読むことはできそうだった。一ページ目に目を通して、これは本ではなく日記帳であることが判明する。字体が丸文字で患者のことが書かれていることから女性看護師のものだろう。
 前半は差し障りのない日記だったが、ある日にちを境に激変した。
 『八月十三日。宿直。またあの気配だけのアレが現れ、患者さんが亡くなった。私が確認しただけでも今月に入って四人目だ』
 『八月二十二日。宿直。患者さんだけでなく、職員も亡くなった。やはりアレの仕業なのだろうか』
 『八月二十五日。宿直。皆どうしてアレの存在に気づかないのか……! 同僚に話しても信じてもらえない。このままだと私もアレの餌食になる。これでは「禁じられた物語」そのものではないか』
 「『禁じられた物語』って……? アレと関係があるの……?」
 急いで次のページを捲ろうと手を伸ばした瞬間、ポシェットのスマートフォンが振動した。跳ね上がりそうになった衝動を押さえ、スマートフォンと取り出す。
 着信、町谷。
 友人からの着信にホッと安心した織部は画面をスライドして耳にスマートフォンを押し当てる。
 「町谷大丈夫? 今どこにいるの? 深森さんも一緒?」
 返答はない。ザーッというラジオのチューニングが合っていないときのような音が薄らと聞こえるだけ。
 「町谷?」
 クラスメイトの名前を呼ぶも、やはり返答はない。代わりにザーというノイズが強くなるだけ。
 いや、ノイズだけではない。よく耳を澄ませば、微かに声が聞こえる。
 『糸を糸を紡ぎましょう。チクチクチクチク縫いましょう。私の私のお人形。大事な大事なお人形』
 聞きなれた町家の声。どこか幼少期に戻ったような無邪気な声で歌っているように聞こえた。
 「町谷! どうしたの町谷ってば!」
 『手足をちぎりましょう。ぶさいくな手足はいりません。取ったら可愛い手足を付けましょう』
 今度は町谷の声がハッキリ聞こえ、加えて男性のくぐもった悲鳴が鼓膜を震わした。
 息が引き攣りついスマートフォンを耳元から落としそうになる。
 この声は間違いなく深森の声だ。一時間前まで一緒にいたのだから間違いはない。くぐもった声は何かで口を塞がれているからだろう。
 しかし、悲鳴は次から次へと止むことはない。
 『曇った瞳もいりません。青いものへと変えましょう。耳ももっと尖ったものをつけましょう』
 言葉通りの行為が行われていることを想像するだけで、吐き気が織部を襲った。
 もう足が痛いとか甘い事を言っている場合じゃない。こんなところで休んでいないでアレが自分から意識を逸した段階で新垣のように仲間を見捨てて逃げるべきだったのだ。
 いや、そもそも初めからこんなところに来るべきではなかった。どうして簡単に肝試しなど参加してしまったのか。今更後悔したところで時間は元に戻らない。
 「とにかくここから逃げなきゃ。病院さえ出れば、何とかなるはず。後は地元の警察とかの助けを呼んで中を調べてもらえば――」
 耳に当てていたスマートフォンを離し、デスクから這い出そうとした刹那――。
 『ニゲラレナイヨ』
 受話器の向こう側から今度は深森のどこかたどたどしい日本語で一言放たれる。
 全身に怖気が走り、思わずスマートフォンを壁に投げつけた。壁にぶつかった衝撃で壊れたらしく、受話器の向こうからは何も音は聞こえなくなった。
 今度こそデスクから這い出そうと震える足に力を込める。
 すると、どこからか荒い息遣いと走ってこっちへ向かってくる足音が聞こえてきた。
 アレが追いかけてきた可能性が頭を過るも、アレには息をする音はなく足音もゆっくりしたもの。つまり、これは新垣の足音。
 織部は全身を貫く恐怖を払拭させるかのように新垣の名前を呼ぼうと、口を大きく開いた ――瞬間、
 「織部逃げろ! アレは、アレは一体じゃない! アレは一体じゃなかった――うわ、来るな! やめろ離せ離せ離せ離せうわううわうわううあうわうううわうわあぁあああぁぁぁああぁああぁぁあぁあぁ」
 どこかへずるずると引きずられて行く音と共に新垣の声も遠のいていった。
 体の体温が一瞬にして冷え切っていくのが分かった。手足の先が氷漬けにされたように冷たい。震えが止まらない。
 ふと、震えにより定まらなくなってきた視界に、読みかけだった日記帳が入り込む。
 震える手を必死に伸ばして日記帳を拾い上げる。もしかしたら対処の方法が見つかるかもしれない。ほんの僅かな希望を抱き織部は最後のページを開く。
 『八月三十一日』
 奇しくも今日と全く同じ日付。
 内容に目を通した織部の息が止まった。
 『見ぃつけた。私の可愛いお人形』
 織部の顔に絶望の笑顔が浮かんだ。
 刹那、デスクの後ろから青白い手が伸びて織部を――。


季節感全くねぇな・・・。
勢いでやっちまったんだ、問題ねえ。
しかしながら、主人公以外の扱い酷くね? と自分に聞きながら書いてた自分がこれまた面白いw
そして明かそう。これは風呂で考えてたから若干風呂が恐かった! ぇ、小説自体はそんなに怖くなかったって?
HAHAHA。そんなこと言うなよー。
( ノ゚Д゚) よし!
そろそろ短編書いて、長編書いてやる気だせるといいな! (・∀・)キマシタワー
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2012*10*02 Tue
10:01

夕暮れのポッキー

 「なーにヘコたれてんの?」
 夕暮れ色に染まった放課後の教室で彼女は僕の肩を軽く小突いた。
 別にヘコたれてはいなかったが、他人から見ると落胆しているように見えるらしい。
 「ほら、これでも食べて元気出しなさいよ」
 差し出してきたのは赤い箱に入ったポッキー。
 僕は箱から摘んだ一本のポッキーの頭を口に咥え、彼女に差し出した。
 彼女は一瞬困惑しながらも周囲を見渡す。
 誰もいないことを確認すると、顔に垂れた髪を耳に掛け、僕に顔を近づけてくる。
 彼女はどこか照れくさそうに僕を睨みながら、ポッキーを噛み始めた。数秒でポッキーはなくなり、僕たちの唇は重なり合う。
 ポッキーの甘い香りと、彼女の淡い香りが鼻腔をくすぐった。
 わずか数秒間の甘いひと時は彼女が唇を離したことで終を迎える。
 「今度ヘコたれてたらもうあげないからね」
 「キスを?」
 「バカ、ポッキーに決まってるでしょ」
 そう言って彼女は赤い箱からポッキーを一本抜き取り、口に咥えた。



Pixivで企画されています「ポッキー クリエイターズ」イラスト部門・コトバ部門。
400文字制限がかかっていて、ちと少ないなと思いながらもカキカキ。
ベタベタなシチュエーションですが、甘い青春時代はこんなんじゃないかなぁ、と遠く過ぎ去った高校時代をイメージして書いてみました。
まぁ、僕自身にはこんな甘い青春はなかったんですけどねぇ。
だから、登場させるキャラクターには僕の代わりに青春を満喫してもらいたいですね。
こっちでは久々の小説投稿になりますが、楽しんでいただければ幸いです。 *

2011*05*03 Tue
01:13

「北」 「車」 「最初のツンデレ」 を使っての「おとぎ話」

昔々、あるところにヘンゼルとグレーテルという兄妹がおりました。
 彼らは父親と、父親の再婚相手の継母と四人で暮らしていました。
 しかし、連れ子の二人を嫌う継母は、もっともらしい理由をつけてヘンゼルとグレーテルを家から追い出したのでした。
 継母に連れてこられたのは木漏れ日も差し込まない森の中。

 「かなり省いての説明だけど、大体あってるわね」
 「え、誰と話してるの?グレーテル?」
 「気のせいよヘンゼル。それよりあなたも気をつけなさい。油断してると悪い魔女に食べられるわ」
 「ねえ、そんな核心のようなこと言わないほうがいいよ…」

 家から追い出されたにしては、妙に落ち着いている二人。というよりませている。グレーテル特に!
 おっと失敬。お話を続けましょう。
 二人が落ち着いているのもわけがあります。
 そう、朝食に出されたパンを――

 「一応、家からここまでの道標に継母の髪の毛をちょっとずつ置いといたわ」
 「さりげなくエグいよ、グレーテル…。夜ハサミ持ち歩いてたのそのためだったのか…。っていうか、追い出されたのそれが原因じゃ……」

 ヘンゼルは、昨晩グレーテルがハサミを持ち歩いてニヤついていたことを思い出します。
 それに、来た道を振り返ると、確かに黒い何かが点々と落ちていますね。
 まるで、呪いの儀式か何かのようでした。
 若干引き気味のヘンゼルをよそに、

 「こんなところで油打ってても話が進まないわ。とにかく北に歩きましょう」
 「え、何で北?」
 「取り敢えず北って言っとくのが、相場で決まってるのよ」
 
 ピシャッと有無を言わせない言葉で、話を進めるグレーでした。

 結局、北と言ってみたグレーテルも、コンパスなしでどちらが北が分かるわけもなく、適当に真っ直ぐ歩くのでした。
 しかし、継母に森の奥へ置き去りにされても帰り道を確保している今、どうしてまた森の奥に足を進めるのでしょう。

 「そういうお話だからよ」
 
 気を遣って下さってありがとうございます。

 「ねえ、グレーテル……。誰と会話してるのって……」
 「あなたは知らなくてもいいことよヘンゼル。でも歩き続けて疲れたわ。こんなとき車があれば便利なのに」
 「クルマ? クルマって?」
 「わたしは少し古いけれど、ランドローバーが好きだわ。あのスクエアなフォルムがいいわね。四輪駆動で、山路も走れるし」
 「ねえ、グレーテル、クルマって?!」

 質問をし続けるヘンゼルを完璧に無視して、グレーテルはぶつぶつ呟く。
 この時代にクルマは存在感しないというのに。

 「使用ワードだからよ」

 本当、気を遣って下さってありがとうございます。
 辛うじて会話にならない会話を幾度も繰り返していると、突然誰かに手入れをされたと思わしき開けた場所に出ました。
 そこには、暗く怖い森の中に似合わないメルヘンチックな家。
 そう、お菓子の家が現れたのです。

 「すごいよグレーテル! お菓子で作られた家だよ!」
 
 夢のような光景にはしゃぐヘンゼルは、全力疾走でお菓子の家に駆け寄りました。

 「ほんと子供なんだから……」

 兄ヘンゼルの姿にため息をつくグレーテルでしたが、ちゃっかり早歩きになっていました。
子供はお菓子大好きですね。

 「うわあ…」
 「すごいわ…」

 お菓子の家を眼前に据えた二人は感嘆の言葉を漏らします。
 それもそのはず、窓は飴、ドアはチョコレート、レンガは一枚一枚全てクッキーで作られているのです。
 外見もさながら、窓から中を覗くと、家具などもお菓子で作られていました。
 お腹が空いていたヘンゼルはついつい、レンガのクッキーを一枚パクリ。

 「美味しい! 美味しいよ! グレーテルも食べてみてよ!」

 そう勧められると、そこは子供。
 グレーテルも躊躇いつつ、レンガのクッキーでパクリ。

 「これだけ空気に晒されているにも関わらず、湿気っていない。加えて外はサクサク、中はしっとりとバランス感覚を考えられて作られている――」

 何だか評論家のような感想でした。
 本当に子供なんでしょうかね…。

 「中に入ってみようよ!」
 「駄目よ。こういう展開は大体悪いことへのフラグが立つのよ」
 「フラグが分からないけど…。じゃあどうするの?中に入りたいよ」
 「駄目。人間保身も大切よ。どうしてもっていうなら、外側だけ全部食べて丸裸にした後、中も食べるといいわ」
 「それなら安心だね! 頑張って食べ――」
 「ちょっとお嬢ちゃんたち、私の家消滅作戦みたいな黒い話しはしないで!」

 勢いよくチョコレートの扉を開いて現れたのは、紫色のローブを着て、腰まである長さの杖を持った若い女性でした。彼女が誰だか一目瞭然でしょう。

 「魔女よヘンゼル。胡散臭い、かなり胡散臭い魔女よ」
 「そうだね、グレーテル。かなり胡散臭い魔女だね」

 そんなはっきりと…。子供って容赦ないですね。
 魔女も悲しそうな顔をしていますよ。
 
 「ちょっとヘンゼル。耳かして」

 おやおや、二人がひそひそ話を始めましたね。
 しかも、ちらちら魔女を見ながら。子どものひそひそ話って大人は案外傷つくんですよね。

 「毒を食らわば皿まで、よ」
 「ちょっとお嬢ちゃん、毒って私のことかな? ……まあ、いいわ。早くお入りなさい。美味しいお菓子とお茶をご馳走してあげる。家食べられたらシャレにならないし」
 「ここは誘いに乗ってあげるわ。じゃないと話しも進まないし」
 「まだ悪い魔女だって決まってないでしょお嬢ちゃん! それに、何? 台本とかあるの? あなた達!」
 
 台本とかはないけれど、元になってるお話はありますね。
 おっと、三人がお菓子の家に入って行きましたよ。
 お菓子の家の中は、先ほど見た通り、床から家具まで、全てお菓子で作られていました。
 ただ唯一、釜戸の横に鉄の大きな釜が置いてあります。一体何に使うものなのでしょう?

 「食べられるわ!」
 「食べないわよ! どこの怪奇種族よ!」

 グレーテルの叫びに間髪いれずにツッコミを入れる胡散――、いえ、普通の魔女。
 それよりもヘンゼルが釜を覗き込んでますよ。
 
 「グレーテル、ちょっと来て! 釜の中に何か入ってるよ!」
 「面白いものかしら?」
 「昨日、熱湯入れ替えたからそんなことないはずよ!」

 ヘンゼルの声に反応した魔女真っ先に釜へ近づき、中を覗き込みました。

 「ただ、煮えたぎってるだけじゃ――はっ……!」

 背後からただならぬ殺気を感じた魔女。
 しかし、時すでに遅し。
 ヘンゼルとグレーテルの手が、魔女の背中を優しく押していました。

 「やられる前にやれ、よ」 

 魔女の体はスローモーションのように釜へと落下していきます。

 「ギャー!! 熱っつ! ちょ、助け……!」

 熱さで悶え苦しむ魔女にグレーテルが一言言いました。

 「か、勘違いしないでよね! 別に世界平和のためにやったんじゃないんだからね! ただ、わたしがお菓子を食べたくてやっただけなんだから!」

 それが、グレーテル最初のツンデレでした。

 「誰がツンデレろって言ったーーーーーーーーーー!!!! 急展開すぎるわよ!! 残虐すぎるわーーーーーー!!!」
 「ねえ、ツンデレって?」

 無情にも無知なヘンゼルは魔女に聞き返します。まあ、それどころじゃないんですけどね。
 と、まあ、その後ヘンゼルとグレーテルはお菓子の家を満足するまで食べ、家に帰って行きましたとさ。
 めでたし、めでたし。

 「全然めでたくないわよ! 私登場する意味ないじゃない!! 登場し損だわーー!! っていうか助けなさい! トロトロに溶ける!」

 熱湯に浸かっているのに随分余裕があること。
 じゃあこうしましょう。
 その後魔女の行方を知る者はいなかった。
 はい、めでたし、めでたし。

 「作者の陰謀だわーーーーーーーーーーーー!!!」
*

2011*04*29 Fri
22:59

「電気」 「墓標」 「可能性が増える」 を使っての「ラブコメ」

窓を雨が強く叩く。これじゃ傘を差しても濡れるだろう。というか、スコール並みに降ってるし。跳ね返りで濡れるどころの問題じゃないのは確定事項。
  空気をまるで読まない自然現象。
 あ、ビニール傘が空を飛んできた。
 どうやら風も強く吹いているらしい。飛ばされた人ご愁傷様。
 僕はそんな外の様子を眺めながら、人気のない高校の廊下を歩いていた。
 人気がないのはすでに授業が終わっていて、この雨で屋外部活が活動自粛しているから。それに帰宅部の面々は雨なんぞに降られる前に、とっとと帰っている。
残っているのは屋内部活の生徒と絶賛仕事中の教師くらいなもの。
 その中でなぜ僕がまだ校内に残っているかというと、理由は簡単。誰もがすぐに思いつく、もの凄く定番な理由。
 早い話、持ち帰るべきはずの宿題という名のプリントを、机の中に忘れてきたのである。
 定番の理由だろう。まあ、誇るべきことではないのだけれど。
 そんなこんなで、学校と家の丁度中間地点でその事に気付いた僕はそのまますぐに帰路を引き返し、学校にもどったのだ。
 という経路で僕は人気のない廊下を足早に進んでいる。
 とっととプリントを取って、帰りたいんだよ僕は。決して人気のない学校が恐いわけではないから悪しからず!
 教室に近づいた時、違和感に気付いた。
 あれ、電気が点いてる。
 いつもなら最後に教室を出る日直が消すはずなのだが、消し忘れたのかもしれない。
 僕は何の不信感も持たず、教室の扉を左にスライドさせる。

 「あれ?」

 視界が開けた直後、一人の女子生徒が机の上に座って、窓を眺めている姿が目に映った。
 僕の心臓の鼓動が少し早くなるのを感じる。
 セミロングの黒髪を頑張ってお下げにし、学校指定のグレーのカーディガン、緑地に白いチェック柄が入ったスカートという服装。
 後ろ姿しか見えないものの、毎日顔を合わせているからすぐに誰か判別がつく。
 気になっている子ならば尚更だ。
 まあ、毎日会話してる分、極度の緊張とかはないんだけどね。

 「まだ残ってたのか夏里」

 少し関西弁ちっくなイントネーションになってしまった。
 僕が夏里と呼んだ少女、夏里舞香(なつさと まいか)は、突然掛けられた声に驚く様子もなく振り返る。

 「あれ、戸塚君じゃん。こんなところで会うなんて奇遇だね」
 「毎日使ってる教室なんですけどー」
 「それもそっか。じゃあ初めから……」

 こほん、と咳払いをする夏里は、テレビやラジオでたまに見かける編集点を使うかの如く仕切り直す。

 「おや、戸塚君じゃん。ここで会うなんてすごい偶然だね。これはもう星の巡り合わせとしか言いようがない!」
 「仕切り直し切れてないよ! 言い回し変えただけじゃん!」

 詩人みたくちょっとかっこよかったけどさ!
 僕のツッコミに夏里はむぅ、と軽く唸り、首を傾げる。どうやら、自分では上手いこと言えたつもりだったらしい。
 口を尖らせた表情も可愛かった。

 「で、戸塚君、何か用があって来たんじゃないの?」
 「おおっと、そうだったそうだった」

 いかん、夏里に見とれてて完全に忘れてた。
 僕はおもむろに夏里へと近づく。
 さすがの夏里も体を委縮させた。誰もいない教室で急に男子が近づいてきたのだ、当然といえば当然か。
 でも、仕方がない。だって彼女が腰かけてる机が僕の席なのだから。そこに用がある以上、近づくしか……ないじゃないか。
 
 「えーっと、夏里。悪いんだけど、ちょっとそこどいてもらっていい? プリント取りたいんだ」
 「あ、ごめんごめん。今退くわ」

 夏里は机から降りるなり、どうぞどうぞ、と腰を低く手を前に差し出す。
 手、握ってやろうかコンチクショー!
 僕は机からプリントを漁りつつ、

 「で、夏里は何してんの? 雨も結構降ってるし、確か部活もやってないよな?」

 と、率直な質問を投げかける。
 単純なことに聞こえても、気になっている子に対しては、色んな意味で勇気のいる質問であることもお忘れなく。
 
 「牧ちゃんを待ってるのよ。帰りにケーキを食べに行く約束をしてるんだけど、あの子バドミントン部だからねー。私は待機中というわけ」
 
 セーフ! 恐れていた答えではなかった!
 ほっと一安心で、肩の力が抜ける。
 もし死亡フラグが成立したのなら、直ぐ様埋葬されて墓標を立てられた方がマシだ。
あー恐かった……。
 ちなみに、夏里の言う牧ちゃんは同じクラスの牧枝咲(まきえ さき)のことである。
 
 「ねえ戸塚君。牧ちゃん来るまで私の暇つぶしに付き合ってよ」
 「……い、いいけど?」

 やば、心臓の鼓動が一気に速まった。
 夏里は僕の承諾に笑顔で礼を言い、すぐに口を開く。

 「戸塚君、好きな子とかいる?」
 「ぶはっ! ごほ! ごは! がは……」

 全く予想だにしていなかった質問に、僕は盛大に咳こんだ。
 加えて、折角取り出した宿題プリントも勢い余って握りつぶした。

 「だ、大丈夫?」
 「ごほ、ごほ……。だ、大丈夫大丈夫。ちょっと唾が気管に入っただけだから」

 僕は必死に呼吸を整える。
 夏里は申し訳なさそうに、

 「ごめんごめん変な質問だったね。さすがにもういるよねー、彼女くらい」

 全く見当違いな謝罪を披露してくれた。

 「いやいやいやいやいや、いないいないないいない。彼女なんて、いません!」

 あなたが好きな子です! と心の中で叫ぶ。
 ヘタレの僕には到底言えない言葉さ。泣けてくるね。

 「おや、そうなの? じゃあ私と同じだね。私も彼氏いません!」

 恥ずかしがることもなく、堂々と胸を張るって公表する夏里。
 僕は今どんな顔をしているんだろう。
 ポーカーフェイスを貫き通しているつもりでいるけど、この瞬間は顔を鏡で写したらとんでもない表情が浮かびそうだった。
 でもでもでもでも! 可能性が増えた! 流れはこっちにある! もうちょっと深い質問をしてみようか。夏里が切り出した話題だ。ある程度の深さなら答えてくれるはず。

 「じ、じゃあ夏里はどんなタイプ――お?」

 突然窓の外に雷光が走り、轟音が鳴り響く。同時に教室の電気も消えた。
 雷が落ちてから、音が鳴るタイムラグがほとんどなかったことを考えると、意外と近くに落ちたようだ。

 「話の続きだけど――って、あれ? 夏里?」

 窓に目を向けていた数秒の間で、夏里は僕の目の前から姿を消した。
 イッツァ・マジック。

 ガタン。

 僕のすぐ前の机からから音がした。

 「何してんすか、お嬢さん?」

 しゃがみ込んで机を覗き込む。
 まあ、言わずもがな。イッツァ・ジックで消えた夏里がそこにいた。
 しかしながら、マジシャン顔負けの移動スピードだ。
 再度、雷鳴が鳴り響く。

 「うわあ!」

 子リスのように小さく震える夏里。
 うん、可愛い。

 「ただの雷だよ。そんな怖がらなくても……」
 「ダメなものはダメなのよ――うひゃあ!」

 心なしか、今日は落雷の回数が多い気がする。

 「雷が苦手なのは分かったから、取りあえず出てきなよ。机倒れそうで逆に危ないから」
 「……そうする」

 僕が差し出した手を夏里が握った瞬間、本日何度目かの落雷。
 落雷と同時に僕の視界が九十度上に移動した。机にぶつけたのか、頭に鈍痛が走る。
 だが、そんなことは些細なことだ。僕の心臓の鼓動がマッハスピードになって、痛みなど遥か彼方へ置き去りにしてやった。
 現状が、よくあるラブコメ展開になっている。簡単に説明すると、夏里が僕に抱きついているー!
 何、何、何ですか、雷さん? 空気読んじゃったりしてます? 自然現象のくせに?
 さっきは空気読まないとか言ってごめんなさい!
 でも、僕個人としてはこのままでいいんだけど、もしマズイ輩(主にこの学校の教育指導者で、若いカップルを目の敵にしている中年)が停電をチェックでもしに来たら多少面倒なことになるかもしれない。名残おしいけど、ここは落ち着いた行動をとろう。
 耳を澄ませばいつの間にか雷の音してないし。今の今までバリバリ落ちてたくせに。
 雨も止んだような気もする。

「ほら、夏里。雷止んだから。もう大丈夫だか――うぐぐがががが」

 夏里の腕から女の子とは思えない力が発揮される、やばい、背骨折れる……。

「僕が……君を……守って……やるから。力……緩めて……下さい……」

 息も絶え絶えに、ほぼ懇願するような形で命の危機を脱出しようとする僕。
 そんな僕の切なる願いが聞き入れられたのか、夏里は僕の腰から手を解くと、すっと立ち上がった。僕も立ち上げる。

 「ごめん、取り乱した」

 顔をカーディガンの袖でごしごし擦りながら、若干の鼻声で謝る。
 やば、ツボに入った。もう行くしかない。ヘタレな僕よ去らば。当たってくだけろ!

 「夏里」
 「ん? どしたの、戸塚君……?」
 「話を戻すけど、僕の好きな子は――」

 僕が過去最大の勇気を振り絞った刹那、本日最大級の落雷。
 完全に僕の声はかき消された。
 もし、声がかき消されて無くても、落雷の恐怖に震える夏里の耳には入らない。
 空気読みまくりだろ、自然現象……。
 僕も自分の机に力なく腰を下ろした。
 すると、廊下からドタドタと早い足音が聞こえてる。

 「舞香ー! 無事ー?」

 この声は夏里お待ちかねの牧枝咲の声だ。

 「色々と迷惑を……」
 「いいって。誰にだって苦手な物はある。黙っとくから心配しないで」
 「うん、ありがとう。また明日ね」

 震える夏里はへっぴり腰になりつつも、鞄を持ってゆっくり廊下へと出て行った。
 一人取り残された僕は半ば放心状態。
 ただ宿題プリントを取りに来ただけなのに、たった数分で精根尽き果てた……。

 「げ、また雨降ってきたし……」

 しかも激振り。さっきのあれは、さらなる嵐の前の静けさだったというわけか。
 ホント空気読んでない自然現象だな……。
 なんかどっと疲れて叫びたい気分になってきた。いいや、誰もいないし叫ぶか。どうせ雨の音でもかき消されるだろうし。

 「あー! 夏里舞香さん! 僕と付き合って下さーい!」
 「ぇ、いいけど……?」

 教室の入り口に夏里の姿。
 え? あれ? お帰りになったのでは? あれ?
 手には鞄しかお持ちではない。まさか傘を忘れて、取りに戻ってきたのか?
 狙いすぎだろ、自然現象……。

 「えっと……戸塚君」
 「はい、何でしょう?!」
 「今から私たちとケーキ食べに行かない?」
 「……よろこんで!」

 さっきとは逆に夏里から差し出された手を、僕は震える手で握り返した。 *

2010*12*21 Tue
00:19

SS「星に願いを」

 世界はつまらないほどに美しい。
 こうして高層ビルの屋上から街を眺めるだけでそう思う。
 街頭や車のライトがイルミネーションのように、光り輝いている。
 そこでしか輝けない光。そこに縛られるようにある光。
 そんなことをふと考えてしまったのは偶然。
 ただ、この夜景が目に映ったからに他ならない。
 僕はつまらない日常を払拭するためここに来た。
 毎日同じこと繰り返し、やりたくもないことを続ける日常から自信を解放するために。
 自由への憧れ、自由の渇望。
 世界が持つ囲いの外へと、抜けだす方法を日々思考し続けた人生の終着点。
 その答えが今現在ここにある。
 一番簡単に誰もが思いつく方法。
 そして、最も愚かな行為だと人は言うだろう。
 でも、僕は決めている。
 期待と不安に満ちた胸に手を当ててみるも、心臓はいつもと変わらない速度で鼓動する。
 落ち着き払った自分に苦笑しながら縁に背を向けて、そのまま身体を後ろに倒した。
 何かを踏みしめる感触が足から消え、体から重力が消えたよう錯覚する。

 ああ……、今日は流星群だったのか。
 目の前に広がる星空。そこで渦を巻くように星が流れている。
 一つ、また一つと命を散らすように消えていく。
 そういえば、流れ星が消える前に三回願い事を言えればその願いは叶うんだっけ。
 いつもは無理だけど、これだけ流れていれば出来る気がする。

 ……なら最後に願ってみよう。
 僕はもう一度空を仰いで呟やいた。

 どうか、次の世界の僕に幸あらんことを……。
*
本日のオタク名言
何を信じてるかって?
自分を信じるしかないよね

Charlotte

by 西森柚咲
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雨宮 翼

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