ホームに向うとすでに電車が到着しており二人は走って電車に駆け込んだ。休日のためか電車内には乗客が多数おり、席に座ることができなかったため二人は手すりに捕まることにした。
天城から遠坂までの区間はたったの4つではあるが、駅一つ一つの間が長いためしばらくは電車に揺られていくことになる。そのため電車内ではやることがない。そんな中で智晴がボーっとしていると、沈黙に耐えられなかったのか成美が声をかけてきた。
「ところで、あきちゃんは遠坂に何しにいくの?」
「友達のところに行くんだよ。」
成美からは行きの電車賃しか借りていないため祖父母の家にでも行くと言ってもかまわなかったのだが、成美が本当の礼乃の祖父母の家を知っている可能性もあったため一番無難なものを答えた。
「そうなんだ。私なんて部活だよぉー。しかも今日大会なんだ、気が重いなぁ。」
成美は肩を落としため息をついた。
そう言われてみれば成美は肩に長い何かを担いでいるようだ。
「それ何?」
智晴が疑問に思い、成美に聞いてみる。
「何ってもちろん弓だよ。あれ、弓道部って言ってなかったっけ?」
「そ、そうだっけ?度忘れ度忘れ。」
智晴は今日何度目か分からない苦笑いをした。
それから二人でぎこちないなりにも他愛無い話を続けた。
そして遠坂に着いて、二人はホームから駅前へと移動した。
「じゃあ私行くから、またねー。」
そう言うと成美は大会の会場へと向おうとするが、それを智晴が呼び止めた。
「あ、ちょっと。」
「何?」
「電車賃貸してくれてありがとう。お金返すの学校でもいいかな?」
そう智晴が聞くと、うん了解と成美は答え再び会場へと向っていった。
その後姿を見送った後智晴も自宅へと足を向けた。
智晴の自宅は遠坂駅から徒歩15分くらいのところにある。本来ならばもう少し時間短縮されるはずなのだが、駅から自宅までは山のように登ったり下ったりといった坂が多い道のりのためどうしても疲労と時間がかかってしまうのである。そのため駅から智晴の家に遊びに来る友人たちには不評なのであった。
そして、少々顔に汗が浮かび疲れが見え始めた頃ようやく自宅に着いた。
しかし、智晴はすぐにインターホンを押さず、寸前のところで止めて、押した際のことを想像してみた。礼乃が出るのならば問題ないのだが母親や妹が出てきた場合後々面倒になることは間違いないだろう。特に妹なんかが出ると彼女だと勘違いされた挙句散々いじられるに決まっている。
智晴があれやこれや思考を巡らせていると不意にガチャという音が聞こえた。
智晴が音のするほうに目をやると自宅から“とても見覚えのある顔”が出てきた。
(・・・・・。)
それをじっと見ているとその“見覚えのある顔”と目が合った。
他人としてだが自分がここに存在している限り自分の身体は当然存在しているに決まっている。しかし思考をするのと現実を目の当たりにするのでは全く印象が違った。
そうすると目の前にいる自分がドアを閉めてから智晴の正面に立った。
「冗談キツイよねこれ。」
智晴の姿をした礼乃が肩をすくめて言った。
「ホントにな。」
礼乃の姿をした智晴が腰に手を当てて言った。
中身が入れ替わった二人は学校で友達と朝の挨拶をするかのような会話をした。
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