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2010*10*20 Wed
19:52

第四話

 神社は森を右に沿って十分のところにあった。
 森に向かったときには生い茂るった木々によって、鳥居が視界に入らなかったらしい。
 鳥居を潜ってすぐ目の前には百段近くあろう階段。
 階段の先は斜面の角度から確認できない。

 「これ登んのか……」

 見ただけで疲れを感じる進。それでも登らなければ、条件が整った場所か確かめられない。

 「ええい、ままよ!」

 黒塗りのケースを抱き抱える進は、全力で階段を駆け登り始めた。


 「僕は馬鹿だ……」

 百段近くを全力で駆けた進は、神社の境内に着くなり地面に倒れ込んだ。
 息も絶え絶え。息を吸うだけで喉が焼けるように痛む。それでもゆっくり息を吸い、呼吸を整える。
 疲労した体はまだ言うことをきかないものの、呼吸を整えたことで幾分しんどさは軽減した。

 「この……歳で、運動不足……か?」

 ただ阿呆なだけ。
 普通のトレーニングならまだ許容範囲だが、これから演奏の練習もしなければならない。
 休めば体力は多少なりとも回復するけれども、練習でまたへばることだろう。
 なんて考えを巡らしていても、結局今は体力回復に落ち着くしかなかった。
 大の字になって目を閉じる。

 「あれ? 進くん……?」

 頭の上から声が聞こえた。とても若い声だ。
 美少女の神様がお迎えにきたのだろうか。
 生まれてこの方、そこまで悪いことをした覚えはないので、たぶん行き先は天国だとは思う。

 「年齢詐欺でなければ喜んで……」

 よく漫画やアニメなどであるロリババアでなければ喜んで、ではなく、実は若作りしてました的でなければ喜んでである。
 進的にロリババアの需要は意外とあった。

 「現実にはいないけどね!」
 「な、何言ってるの進君……?」

 しんどさのせいか、進の思考が渦を巻いて普段とは違った発想を展開させる。
 女神も心配そうな声音。
 しかも近い距離で聞こえる。僅かに女神の息が進の顔にかかる。
 うっすら目を開ける進だったが、木漏れ日の逆光で女神の顔は確認出来ず。

 「女神様……。僕に水を……、一杯の水を……」
 「お水? 待ってて、今持ってくるから!」

 女神って何のことだろ?と呟きながら女神は水汲み場へ走っていった。
 待つこと数十秒。

 「お待たせ!」

 と言う声の後、進の顔に水が降り注いだ。
 しかもコップ一杯分の量ではなく、バケツ一杯分くらいの量。
 一気にぶっかける勢いならまだしも、女神は量を調節し、長時間水を注ぐ。
 それも口元に。
 最初はありがたい気持ちで頑張って飲み続けていた進も、途中でガボボガガガボと口から水を噴射し始め、

 「死ぬわ!」

 の一言で勢いよく起き上がった。

 そこで初めて女神の正体が確認出来た。
 進の目の前には巫女服姿の透。
 よくよく考えてみれば、昨夜この村に来たばかりの進を知る若い村人は透しかいない。
 親戚の姿を見た進は、

 「死ぬわ!」

 と、二度同じことを言う。

 「一杯お水欲しかったんでしょ?」
 「限度があらあ! たくさんじゃなくて、コップ一杯だよ!」

 日本語って難しいなあ、おい! と進は叫び、手をジタバタして悲しむ。
 単なるオーバーリアクションだけれども。
 冷たくおいしい水はお腹いっぱい頂いたけれども。

 「っは! ケースは無事か!」

 完全に頭から抜け落ちていた何よりも大切な、黒塗りのバイオリンケースの姿を探す。
 ケースはすぐに視界に入る。というか、へばった時に置いた位置から動いていないのだから、そこにあるのは当たり前。
 進は直ぐさまケースのロックを解除して、中身の確認をする。

 「水に濡れてないな。へこんでないな。割れてないな。傷――は元々ちょっとあるけど、壊れてないな」
 
 外見上では変化なし。次に心配なのは――。

 「音階」

 バイオリンを顎の下に挟み、弓を弦の上に置く。
 一息吸い込むと、滑らかに弓を動かし、弦を振動させ始めた。
 ドからシまでの高低音をそれぞれ一音ずつ丁寧に調べていく。
 進のそれは朝の木漏れ日と木々の擦れる音に混じって、一つの楽曲と化していた。
 音階を調べ終えた進は、

 「ふー、異常はないな」

 と胸を撫で下ろす。

 小さい子供が使う練習用であれば比較的値段は安いが、コンクールに出場する程の腕がある奏者が使うならそれ相当の価格帯になる。進の持つバイオリンの値段は不明だが、高級品ならばうん百万円以上するものもあるという。
 やすやすと壊れたから買い替えることなど出来ない。

 「ん? どったの透? ぼーっとして」
 「すごいわ、バイオリン弾けるのね!」
 「別に凄くも何ともねえよ。バイオリン弾ける奴なんて探せばごろごろいるって。それより拭くもんない? 
びっちゃびちゃなんですけど……」
 「拭くものね。ちょっと待ってて、持ってくるから」
 「タオルだからな!吹くものとかで風車とかいらないからな!」

 社の中に急ぐ透に注意してしまう。
 さすがにこの間違いはないと思っていても、ついさっき前例があったため仕方ない。

 「あっ。タオルあっても着替えないし……。濡れたままの練習は……さすがに風邪ひくか」
いくら暑い夏であっても、馬鹿は風邪ひかないという言い伝えはあっても、涼しい早朝では引くこともある。滴る水滴を振り払う今でも、徐々に体温が奪われているのだ。

 「はい、進君。タオル」

 社から戻ってきた透が、ちゃんとタオルを進に手渡した。
 ハンドタオルのような小さなものではなくて、大きいバスタオル。社の中にあるのは謎でも、全身を覆えるバスタオルはありがたい。

 「それと。進君って私と身長ほとんど同じよね? そのままだと風邪引いちゃうから着替えも持ってきたわ」 
 「マジで! 至れり尽くせりだなあ。これで練習もでき――」

 透の手にある服は、白い布と赤い布を縫い合わせた生地。
 どこかで、しかもつい最近見かけたような色合いの服だった。
 さらに、服は幾重にも折り畳まれていて異様に丈が長いことが分かる。
 極めつけは透が着るサイズであるということ。

 「巫女服かよ!」
 「無いよりましだと思うけど。大丈夫よ。誰も見てないし、見られても女の子だと勘違いされるわ」
 「僕そんなに女顔じゃないよ?! 母さんからも気持ち悪いくらい父さん似って言われてるし!」
 「人間は一人一人感覚が違うじゃない。だから一回着てみよう?目覚めるかもしれないわ」
 「何に?!」
 「そこはほら、色んな方面があるじゃない」
 「お前そっち系の本も好んで読んでるな! 絶対そうだ! うわっ、やめ、やめて、セクハラーーーー!」
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2010*10*19 Tue
22:28

今日の購入物

今日名駅に映画観に行って、そのあとにアニメイト=コードAに行ってきたぜい☆

お久しぶりに行ってきたアニメイトは……、相変わらずオタクの巣窟だったwww

まぁ、そんなことはどうでもいいんだYO!!

なんでアニメイトに行ったかというと、コレ買うためだったのさ↓↓↓

DVC00155.jpg

「キノの旅 the Beautiful world ⅩⅣ」 作 時雨沢恵一  画 黒星紅白

もう十四冊も出たんだなぁとしみじみ。

短編だから読みやすいよね~。

長編のほうがどっちかというと好みの分類に入るけど、短編もよい!

しかも主人公キノだけの話だけじゃなくて、師匠やシズっていう他のキャラクターの話も出てくるから飽きない☆

黒星紅白のキャラクターもマジで良いからなぁ。

最高!!

あとは……

                       ヘ(^o^)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /
                 (^o^)/ てめえが何でも
                /(  )    思い通りに出来るってなら
       (^o^) 三  / / >
 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三 
 ( /
 / く  まずはそのふざけた
       幻想をぶち殺す

とある魔術もいいけどね!! *

2010*10*15 Fri
21:34

第三話

 太陽が顔を見せて間もない早朝。うっすら霧がかかる視界に、朝の涼しい気温。夏場で唯一気持ちのよいひと時。肌寒さを感じつつも、宮守進は歩いていた。
 赤白ラインのポロシャツに青いジーンズという服装。手には茶色なバイオリンケースが握られている。
 進が歩いているのは小道。その脇には、田んぼや畑が広がっている。
 どこかキョロキョロしているのも、手元のケースで一目瞭然。
 歩きながら誰にも迷惑がかからず、バイオリンを弾ける場所を探しているのだ。
 早朝ならば人もおらず、思う存分練習が可能。地元でいつも使っていた進なりの作戦。誰もいない静かな朝を満喫する。
 進にとってはいつも通りの朝――になるはずだった。

 「皆朝早過ぎだっての……」

 早朝にもかかわらず、いや早朝だからか。
 周りの田んぼや畑には、しっかり農作業に励んでいる町民が多々見受けられる。今歩いている小道でも、農具を持った人と何度もすれ違う。
 これでは誰もいない静かな場所などなさそうだった。

 「家でも祖母ちゃん起きてたし。やっぱお年寄りは朝が早いのか……?」

 その考えに確証はないが、この村では実証されている。進には嫌な結果だったが。

 「こうなったら森の中でやるしかないか。虫が多そうで嫌なんだけど……」

 森で囲まれた村だ。
 少し村をはずれれば、すぐ森林に足を踏み入れられる。音も草木が遮ってくれるだろう。

 「えーっと。適当に歩いたからなあ……。迷っても面倒だし、家に近いところにしよう」

 進はあてもなく動かしていた足を森に向けた。
 目指した森は名塚家から時間にして三分程度のもの。家の裏側に森が広がっているのだ。
 進は家を通り越し森に足を踏み入れる。
 中は草木によって光が遮られ薄暗くなっており、無数の木からは樹液の臭いが漂う。本格的に大量の虫がうごめいていそうだった。

 「ここじゃ駄目だな」

 森の入口から数歩歩いたところで断念する。
 足元を確認するも、木の根や緩い土で安定感がない。まだ太陽の当たる入口付近でこの状態ならば、奥に行くほど地面は湿気で荒れているだろう。やはりコンクリートのような硬い平地を探す必要がある。
 仕方なくまた村の中へ足を運ぼうと、半回転する。

 「あー。どこか近くに人がいなくて、地面が硬い場所はないかねえ……」

 空を仰いで一人呟くと、

 「それなら近くに神社がある。条件にはピッタリじゃないかな?」

 真後ろの森から女性の声で返答があった。
 進は突然の声に身構える。ゆっくり振り返り、女性を見据えた。

 「……どちらさまで?」

 「こらこら。せっかく親切に教えてあげたのだから、そう警戒しないでおくれよ」
 「そう言われても、あなた村の人じゃないですよね? 明らかに服装が違う」

 女は夏だというのに、長袖の黒いウインドブレーカーという服装。おそらく服装だけを見たのなら、そこまで彼女を不審に思うことはなかっただろう。
 問題は装備。
 女の手には土で汚れた軍手を嵌めており、背中には寝袋がくくりつけてある茶色のリュック。腰にはウエストポーチ、ハンマーと小型ドリルもくくりつけている。村に遊び目的で来たのではないことは一目瞭然だった。

 「もしや気になってるのはこの格好かな?」

 と女は進の不審ヵ所に気づく。しかし、別段困るわけでもなくそのまま続ける。

 「ちょっとした探し物があってね。そのための装備さ。長袖なのは、森などに入っても肌を傷つけないため。リュックには着替えや簡易テントが入っている」

 お金がないから野宿なんだけどね、と苦笑いを浮かべる。
 しかし、進は相手を同情することなく自信の興味を最優先した。

 「探し物? この村に時間をかけて探すに値するものがあると?」
 「私の自虐ネタは無視かい。……君、この村の子供じゃないね? 私たちのことや、神社の場所を知らなかったわけだし」
 「……そうだよ。僕は都心の人間だ。それを聞くってことはそっちもこの村の人間じゃないだろ。それより、最初の質問に答えてもらってないんだけど?」
 「君、見かけより自己中だな……。えっーと、この村に何があるか、だったね」

 女はウエストポーチから一枚の紙をつまみ出した。

 「地図?」

 進の言葉が疑問形なのは、それが地図の切れ端のように思えたため。
 顔を近づけて注意深く確認する。古本のような臭いが鼻に入っていく。

 「やっぱし地図か」

 中途半端に切り取られてはいるものの、地形や建物の記号地図、さらに何やら星印しも書き込まれている。これが宝の在りかなのか。
 また、すでに黄ばんでおり、所々黒い染みや一部穴が空いている。
 かなり昔のものと思われた。
 女は声のトーンを落とし、

 「これが宝の地図さ。でもご覧のとおり完全じゃない。噂では村のどこかに他の部位が隠されているらしい。君は知らないかい? どんな些細なことでも構わない知っていたら教えてほしい」

 真剣な顔で進を見据える。それを進は軽く手であしらい、

 「さっきも言ったけど、僕はこの村の人間じゃない。悪いけど村の秘密どころか、公衆電話がどこにあるかすら知らない有様だよ」

 公衆電話があるかどうかは分かんないけど、と進は視線を逸らした。
 これ以上詮索されても相手にとって有益な情報は出てないとは思うが、あまりいい気分ではない。

 「じゃあもし家の蔵とかで地図を発見したら譲ってくれないか? お礼はするから」

 女は合掌して片目を閉じる。
 可愛いポーズをされても、怪しいお宝ハンターの言葉を信じる進ではない。
 適当に相槌をうって、

 「じゃあ朝ごはんの時間も近いんで、僕はそろそろ行きます。お姉さんも頑張ってください。神社の情報ありがとうございました」

 心にもない励ましと感謝を棒読みで伝え、この場から早歩きで抜け出す。
 目的地は神社。嘘の情報かもしれないが、ここで嘘をつく必要はない。
 それに、演奏に最適な場所がようやく見つかるかもしれない期待感の方が高かった。
*

2010*10*13 Wed
00:37

第二話

 「ほら進、鷺ノ宮村だ。覚えてるか?」

 右前方にうっすら木々の間から家が何軒か窺えた。その手前には川。この時期は魚釣りや川遊びが楽しめそうだ。車が川の上の橋を渡っていく。すると、月明かりで反射した川の中に冷やしてあるスイカが視界に入った。進は涎が出そうになって口元を覆う。
 村の入り口なのか、「ようこそ鷺ノ宮村へ」と小さく書かれた立て札の横を通り抜ける。
 眼前に一面田んぼが広がった。
 暗がりでもはっきり、民家以外それしかないことが分かる。

 「……田んぼだらけだ。これなら昼間は牛や豚が道端歩いてそうだなあ」

 進は車の窓ガラスに寄りかかりながら、ぽそりと呟く。

 「おいおい、そりゃ偏見だ進。ここはあれだが、村の中心に近づけばそれなりに栄とるんだぞ。牛や豚に関しては否定できんがな」

 「これで牛車とかあったらかなり歴史を感じる村になんじゃね? ま、車があったらそんなんいらないに決まってるけどさ」

 進の冗談に祖父は静かに牛車はいい案だ、と頷いていた。
 軽い気持ちで言った冗談が、村起こしのアイディアに組み込まれるとは。しかし、この村に乳牛以外の牛がいるかどうか怪しい。
 さらに村の中に入ってゆき、やがて住宅街にたどり着く。
 進の祖父は、一軒のでかい家の前に車を停車させた。門に名塚と書かれた表札がかけてある。この村の家はどこも二階建てだったが、この家は三階建て。
 進は自分の家より遥かにでかいこの家に感動を覚えた。隣の祖父からは昔何度か来たやろ、と笑われたが、幼いころよりも理解度が高い分それは仕方のないことだった。
 進は車を降り、祖父に続き家の玄関に入っていく。

 「おい、帰ったぞ」

 「はいはい、お帰りなさい」

 奥の扉から祖父と同年齢ほどの女性が出てきた。進の祖母である。祖母は進を見るなり駆け寄ってきて、

 「まあまあ大きくなって。これでは私も歳を取るはずね」

 と言って進の頭を軽く撫でる。

 「ちょっ、恥ずかしいからやめて……」

 手を払いのけることはなかったが、頭を後ろに逸らした。

 「おう、進。部屋に案内してもらいな。わしはちょっくら村の会合に寄ってくる」

 「じゃあ、おあがんなさい」

 進は祖父を見送ってから靴を脱いで、キッチリ揃えて家の床に足を踏み入れる。玄関のすぐ前には階段があり、祖母はそれを上っていく。
 二階に着いて一番奥の部屋に進は案内された。扉を開くなり生温い風が飛び込んでくる。その先に二十畳はある広さの空間があった。部屋の中は勉強机に丸テーブル一つ、それに小型のクーラーと生活感のカケラも感じられなかった。
 
 「この部屋は進のお母さんが使っていたのよ。元あった家具はそっちの家にあるはずね」

 祖母の言葉で自室の状況が思い出される。リビングや自分の部屋に家具が置ききれないため、息子の部屋に許可もなく桐箪笥やら化粧台やらを置かれて、こじんまりしたスペースしか残っていない自分の部屋。一室一室が広いこの家の感覚を今の家に持ち込まれても非常に困る。進は自宅に帰ったら、真っ先に文句を言ってやろうと心に決めた。

 「それじゃあ荷物置いて下に行きましょうか。ご飯は食べてくるって、あなたのお母さんから聞いているのだけれど。大丈夫?」

 「大丈夫だよ、蕎麦食べてきてるから」

 進は丸テーブルの上に荷物をそっと乗せた。一応壊れ物も入っているので配慮しているのだ。
 祖母に連れられ下のリビングに足を運ぶ。


 リビングは進が使う部屋の二倍はある広さだった。畳が敷かれていて和を醸し出している。
 だが、家具は真ん中に八人用のテーブルや液晶テレビ、食器棚それと四人掛けのソファーだけだった。
話によると昔は他にも家具はあったのだが、壊れたり不要になったり、進の母親が持っていったりしたらしい。
 何でもかんでも持っていく母親に恥ずかしさを感じる進だった。

 「お茶をいれてくるから、くつろいでなさいな」

 祖母は台所の暖簾をくぐっていった。

 「くつろぐっつっても、テレビ見るくらいしかないよなあ」

 テーブルの上にあった煎餅を唇に挟んでテレビの電源を入れた。
 画面には全く知らないローカル番組がやっており、芸人らしき司会者が別段面白くないコントを披露している。
チャンネルを変えてみるも夜のニュースや特に興味ないドラマしか放送されていない。仕方なく夜のニュースを見ることにした。流れるニュースもローカルのものが多く、全国のものは全体の四割にも満たない。
 一番注目したのは天気予報。というよりも、これしか気になるものがなかった。週間天気予報によると、一週間快晴で日射病に注意らしい。

 「進ちゃん、お待たせ」

 祖母が湯気の立つ湯呑みと急須をお盆に乗せて台所から出てきた。

 「あー、ありがとう。でも氷があったらもっと嬉しかったかな」

 真夏に熱いものを飲み食いして汗を出す。進も家でよくやるが、気分じゃないときももちろんある。
 しかも煎餅を食べて喉が渇いている今ならば尚更だ。

 「そう言うと思ったから用意してありますよ」

 再び台所に戻り、長めのコップ十数個の氷を入れて持ってきてくれた。さっきは一度に全部持てなかったらしい。
 進は注いでもらったお茶を氷で冷やしてから一口飲む。

 「…………!」

 危うく飲み込んだものを吐きそうになり、気合いで胃に流し込む。

 (なんだ……これ……)

 口の中をかつて味わったことのない苦さが広がる。
 例えるならゴーヤの味を二倍に圧縮した苦さ。つまり苦い。これはもうお茶ではなく薬草茶の域だった。

 「これ……、何茶……?」

 「これは自家製の薬膳茶ですよ。苦いけどとっても体にいいのよ」

 予想的中、薬膳茶だった。だが、薬草茶のほうが遥かによかった。
 進は一口ですでに限界を迎えつつあったが、残りを気力で一気に飲み干した。

 「うへえ、苦い……」

 胃に苦さが溜まる感覚で気持ち悪くなる。
 口直しも兼、台所で水を飲んで気持ち悪さは耐え忍いだ。
 まだ苦さが消えないので冷蔵庫の中も物色する。残念ながら甘いものは見つからなかった。
 進は諦めてリビングに戻る。

 「なっ!」

 リビングに戻るとテーブルを挟んで、祖母の横に赤と白が交じり合う巫女らしき服を着た女の子が立っていた。
前髪を斜めで揃え、二本のヘアピンでとめている。一瞬しか確認出来なかったが、後ろ髪はみつあみにしたお下げにしているようだった。手には茶色の紙袋を持っている。

 「こんばんは」

 巫女服姿の女の子に挨拶されたが、進は愕然としていて返答をよこさない。
 漫画の世界、または限られた現実世界でしか拝むことのない巫女服少女が目の前に。
 進は何度か口をパクパクさせ、ようやく喉の奥から搾り出したような声を出す。

 「ば、ばあちゃんこの子誰さ!」

 「あら、覚えてない? 小さいときよく遊んでいた、いとこの透ちゃんよ」

 「透?!」

 うろ覚えの記憶を甦らせようと奮闘するも、健闘むなしく記憶は霧散する。なにせ九年前に会って以来なので、すっかり記憶から抜け落ちている。子供の成長は早いのだ。
 仮に覚えていても九年前の姿と今の姿が一致するはずがない。
 進がまじまじと透の姿を眺めていると、透は助けを請うように祖母の服を軽く引っ張った。

 「あらあら、透ちゃん緊張しているのかしら?」

 「そういうわけじゃないけど……」

 さすがに上から下まで嘗め回すように見られては羞恥心、もしくは嫌悪感を抱くに決まっている。
 進は興味に自制をし、咳払いで悪くなった空気を誤魔化す。
 いまだ祖母の後ろに隠れている透を進は見据えて、

 「久しぶり。僕のこと覚えてる?」

 「覚えてる――って言ったら半分嘘になっちゃうかな」

 「僕は覚えてるのにな。とってもいい思い出の一ページ」

 「さっき私のこと誰っておばあちゃんに聞いてたじゃない。それって完全に忘れてたってことよね? なら私のほうが進君より思い出の一ページがあるってことね」

 透も負けじと弁明するが、要するに進と同じく幼少期の記憶は鮮明ではないらしい。
 ひどいなー、と進が冗談交じりに言うも、お互い様よ、と透は笑う。
 九年ぶりの再会。少なからず不安があった二人。
 会ってみれば何のことはない。不思議なほどすぐに打ち解けた。

 「まさか巫女服で登場とは予想外だよ。趣味で着てんの?」

 「この暑い中趣味でこんなの着る人はいないと思うわ。いるとしたら暑い気候が好きな人だけよ。よっぽどね。用があってこんな格好してるけど、あまり着たくないわ。暑いから……」

 「趣味だったら面白かったんだけどな。他も凄い衣装とか持ってそうだし。ならさ、暑いのを我慢しなきゃいけないほどの用ってのは?」

 「ただのアルバイトよ。村の役場で雇ってもらってるの。普通中学生じゃアルバイトできないでしょ?」

 なるほどね、と進は一言。理由に納得しつつも、体よくごまかされた感は否めない。
 しかし、ごまかされたのにも理由があるはず。進はそれ以上の追求はしなかった。

 「そういえば伯父さんと伯母さんは? 挨拶したいんだけど」

 「あの二人、今村役場で会合してるの。たぶんおじいちゃんもいるんじゃないかな。本当に会合してるのか怪しいけどね……」

 「会合と言う名の飲み会に変化するわけね。これはどこだろうと変わらないな」

 進はやけに大きく頷いた。どうやら似たような経験があるらしい。
 透がはにかみながら「お酒飲むの?」と聞くも、進には「まさか」の一言で流される。

 「ところで、その手に持ってる紙袋何入ってんの? 本屋の名前書いてあるから本だよな?」

 「そうよ。バイトの前に買ってきたの。この小説知ってるかな?」

 透が紙袋のシールを剥がし、中身を取り出した。姿を現したのは一冊のハードカバー書籍で、全体が赤と橙のグラデーションで彩られていた。

 「その本ってまさか……!!」

 進が即座に異様な反応を示す。
 目をこれでもかというほど大きく開き、手をわなわな振るわせる。

 「これ「播磨探偵の協奏曲」か? サブタイトルは、虎穴に入らずんば虎児を得ず? 新作じゃん!」

 進は目を輝かせ、本と一緒に透の手を握りしめる。
 予想していなかった出来事に透は困惑する暇もなく、状況に身を任せるしかなかった。
 祖母は孫たちの微笑ましい姿を見て、ただただ静かに微笑んでいる。

 「なあ、この村に本屋ってあんの? あんなら今から連れてってくんない? 俺もこの本欲しいんだ!」

 「えーっと、言いにくいのだけど、この町に本屋はないの。電車に乗って五つ先にある駅まで行かないと本は買えないのよ」

 「げ、まじで……? あー、そういや母さんが言ってたな。この村ってコンビニもなければインターネットも通ってないんだっけ?」

 「田舎だから。都会みたいに生活を豊かにしてくれるものは少ないの。よかったらこの本読む? 私また買うから」

 透は一度も開いていない本を進の目の前に差し出した。
 進は一瞬、自分の手にある本を見て生唾を飲み込んだが、すぐに本を押し返した。

 「さすがに仲間、いや同志からこれを奪うわけにはいかない。これは透に読んでもらうことを望んでいるよ。だから僕のことは気にしないで」

 長く遠慮の言葉を述べる進だったが、始終視線は本に釘付け。
 これには透も苦笑いを隠せなかった。

 「だったら今度一緒に本屋行く? 今日明日は無理だけど」

 「本当か?! 行く行く、楽しみに待ってるよ!!」

 跳びはねて喜ぶ進は、まるで遊園地に行く約束をした小学生のようだった。

 「ところで進君は登場人物で誰が好き? 私は播磨探偵の助手をする仲間警部補が好き。普段はオドオドしてるけど、いざっていうとき体を張って犯人を捕まえる姿が好きだわ!」

 透は立ったまま続けて会話に入ろうとする。同じ趣味を持つ人に出会えたことが嬉しかったのだろう。一言一言に熱が入っていた。
 透の姿勢に驚くことなく、進は進で応戦体勢になる。どうやら語る気満々らしい。

 「仲間警部補ね。王道どころだなー。僕は断絶播磨探偵が裏で雇ってる報道マンの車田。車田がいなかったら解決しなかった事件も多いしな。かなりのキーマンになってるだろ!」

 「進君のがマニアックすぎるのよ。車田なんてほとんど播磨探偵と電話してる描写しかないじゃない。それに比べて仲間警部補は毎巻登場して活躍しているわ。犯人に刺されそうになった播磨探偵を身を盾にして守ったこともあるじゃない」

 「いやいや、警部補はいいとこどりしてるだけだって。そもそも刑事が探偵に頼りっぱなしってどうよ。結局播磨探偵が犯人捕まえるだけじゃん。その点、車田はすこいぜ。一人で事件の真相に限りなく近づくからな」

 「一人で? それこそおかしな話しじゃない? 電話のシーンがほとんど、実際に登場しても情報提供するだけで終わり。どんな根拠があって車田は一人で調べてるって言えるの?」

 言えるさ! と進は反論し、それに透もおうむ返しに反論する。
 マニアの域に達している二人は、自分と違う相手の意見をなかなか認められない。まさに甲論乙駁。
 祖母は長きにわたる二人の論争を、一人椅子に座り、お茶をすすりながら眺める。

 「違うって! 犯人の目的は学校の――」

 「教室に飛び込んだのは警部補で――」

 論争は今尚止まることを知らない。透は巫女服が暑い上に、会話に熱が入っているため額に汗が滲んでいる。着替えも風呂も完全に無視していた。
 この後も二人はキャラクター評論を続け、時間は深夜にまで及んだ。
*

2010*10*12 Tue
00:03

第一話

 ガタンゴトンガタンゴトン。
 一両編制の電車が、森にも似つかない田舎道をひた走る。窓から外を眺めても見えるものは夕日色に染まった木と草花。たまに木々の合間から同じく夕日色に染まる田んぼや茶畑などが垣間見えるものの、すぐ木と崖によって姿を隠される。
 都心を抜けて早三時間。電車に揺られる少年は白地に赤いラインが斜めに入ったシャツに、ダメージ加工が施された黒のジーンズという服装。
 隣の席には大きめの青いスポーツバッグ。少年はスポーツバッグのファスナーを意味もなく開閉している。
 いい加減ただぼーっと座っているのも限界らしい。
 電車内で暇を潰そうと小説とミュージックプレーヤーを持参してはいた。
 だが、揺れる車内、点滅信号のように差し込む陽光、この状態で小説を読むと気分が悪くなる。
 まだ音楽があるとヘッドフォンを耳に掛け、一時間聴き続けた。すると徐々に耳の裏あたりが痛み出し、やめざるを得なくなった。そもそもこのプレーヤーに三時間分も音楽は入れていない。
 一応携帯電話もあるが、山のせいか電波が届かず、圏外のマークが表示される。仕方なく気合いで少年はもう一度小説を読んでみようと試みるも、結果は同じだった。
 最終手段に取っておいた周囲の会話を聞いて楽しむ、を使うときが来た。
 だが、車内の会話は皆無。しかも乗客は車掌とこの少年を除いて五人。それもそれぞれ一人で電車に乗ったらしく、皆寝ているか窓の景色を眺めるかのどちらかだった。電車に乗り込んだとき確認したのは、五人中四人が六十歳以上で、一人だけスパンコールが特徴の帽子をかぶった二十代後半に見受けられる熟睡中の女性がいた。おじいさんやおばあさんはともかく、若い人ならば携帯で会話をしてくれるかも。などの淡い期待を抱いていたが、一向に携帯は鳴らず、目を覚ます気配もなかった。
 これで全ての暇つぶしを使い果たしてしまったことになる。
 仕方なく、今一人で出来るものを考える。昔テレビでチェスや将棋などのゲームを頭の中でやっている人を見たが、そんなもの出来るわけがなかった。相手もいないのは言うまでもない。
 夕食も電車に乗る前、立ち食い蕎麦を食べて済ませている。
 完全に作戦を誤った。
 そもそもは目的地までの到着時間が聞かされていたものと大きく違ったことに問題があるだろう。
 万策尽いて、寝過ごし覚悟で目を閉じたとき、ポケットの携帯が振動した。どうやら圏外から抜け出したらしい。一両編制の電車に当然通話スペースなどないので、その場で通話を行う。

「もしもし?」

少年は迷惑にならないよう小声で会話を始めた。

 「あ、母さん? 今どこかって? まだ電車の中だよ。っていうか二時間もすれば着くって話じゃなかったっけ? もうかれこれ三時間くらい経過していますが……」

 電話の向こうからごまかし笑いが聞こえてくる。親は都合が悪くなると大抵笑うか逆ギレで話をごまかす。もう慣れてはいても感心できることじゃない。少年の心境を察したらしく、母親は笑いながらもあと少しで着くわ、と気休めを言った。

 「んで、後は? は、駅の名前覚えてるかって? 覚えてるに決まってるだろ、もう十五だっつの。そんで? ああ、迎えが来るのな。うん、うん、皆にはよろしく言っとくから。はいはい、了解。電池なくなるからもういい? 切るよ」

 母親がまだ何か言っていたが、どうせつまらない小言だと確信したので無理矢理通話を切った。そして再び退屈な時間が訪れる。
 目的地のアナウンスが流れたのはその一時間後だった。

 
 「ようやく着いたー」

 少年は駅名を確認するや否や電車から飛ぶように降りた。
 看板には鷺ノ宮駅と表示されており、その横に三人座りのベンチが置かれていた。この駅にはそれしか目立ったものがない。待合所もなければ自動販売機もない、果てには喫煙所もなかった。無人駅なのは言うまでもない。
 すっかり日は落ちてしまっている。

 「しっかし、街頭がないと暗いもんだな」

 見渡す限り明かりと呼べるようなものはなく、暗闇のみが広がる。唯一の光はホームの蛍光灯くらいか。
 とりあえず迎えが来るまで一休みすることにした。ベンチに座り、両端に鞄と持参品を置いて、縮こまった体を目一杯延ばす。伸びをするのはこの上なく気持ちがいい。電車内での疲れが嘘のように消え去る。

 「夜でも暑いのは田舎も都会も関係ないんだな。あー、でも車の排気ガスがないからこっちのほうがマシかも」

 手で風を作りながら、独り言にふける。

 「にしても大掛かりなリフォームするからって、家から息子を追い出すか普通……。夏休みだからいいけどさあ」

 今朝、突然部屋に乗り込んできた母親に告げられた家のリフォーム。一応リフォームの予定表を上から下まで見たものの、料金表と予想図しか書かれていなかった。詳しい日程などは全く教えられていない。
 母親からは祖父の家で世話になれと電車賃だけ渡され、いつの間にか用意されていた荷物と共に放り出された。
 抵抗する暇もなく、母親の突発した考えに流されるまま今に至る。

 「っとに無茶苦茶な親を持つと苦労するなあ。あー、暑い」

 しばらく手で風を送っていたが、逆に動くことで体温が上がっているのに気づき、扇ぐのをやめた。

 「それよりも、さっきからなんか忘れてるような……。なんだろ……」

 日射病を防ぐためタオルを頭の上に乗せる。ついでに額に浮かぶ汗も拭う。
 そこでひっかかる何かが解消する。

 「あ、電話で着いたこと知らせなきゃ迎え来ないじゃん」

 そんな当たり前のことを思いつかず、暑さで体力を消耗している自分に腹が立った。ぶつぶつ自分に文句をたれながら携帯を取り出す。
 電話帳を開いたところで動きが止まる。

 「まだ圏外かよ!」

 電車で山を抜けたと思いきや、電波が伝わる範囲からは逸れているらしい。地下などで電波がないことはざらにあるが、地上で電波が入らないのは初めてのことだった。落胆を隠し切れない進。
 数秒携帯を睨み合うも、結局祖父の家まで歩くことを覚悟せざるを得なかった。
 パッパー。
 改札口の奥から車のクラクションが聞こえた。少年が看板にもたれながら奥を覗きこむと、そこには一台のパジェロが停車していた。夜なので色は定かではない。随分旧型で、あちこち泥がこびりついている。自分の迎えではないと思い無視するが、再度やかましいクラクションが鳴らされる。
 そして今回は、

 「進、早く来んかね!」

 と名指しで呼ばれた。まさかの自分の迎え。とはいえ、駅には自分しかいないので、自分の迎えだと思わない進が変だった。

 「暑さでやられましたかねー? 汗やばいし……」

 進は手にかいた汗をタオルで拭い、荷物を持ち上げる。電車に乗る前よりも重たく感じた。やはり暑さで体力を消耗している。進はなるべく踏ん張りつつ、改札口を抜け車に乗り込んだ。運転席には白いタンクトップに迷彩の短パンをはいており、白髪が目立つ六十代くらいの男がいた。

 「やあ、じいちゃん久しぶり。九年ぶりくらい?」

 「そうだな、前会ったときはまだ寝ションベンたれだったしな。しっかし、大きくなって」

 がははは、と笑いながら進の肩をバンバン叩く。

 「寝ションベンの話はともかく。こんなジャストに迎えって、俺がいつ着くか知ってたの? 今しがた村まで歩くの覚悟してたところだったんだよね……」

 「お前の母さんに何時発の電車に乗ったかは聞いてたしな。それに、ここらの電車は基本一時間に一本しかない。到着時間なんぞ手に取るように分かるぞ」

 付け加えて、天候によっては一時間に一本もないときもあるし、一日中ないときもあるらしい。都心では、外を走る電車は悪天候の場合発車を遅らせたりはすることはあるが、その日走らせないというのはありえない。これが需要の差なのだろう。
 話しながら祖父は車のエンジンを入れる。
 低いエンジン音に続いてひんやりした風が冷房から吹きこんでくる。
 掃除をしていないのか、誇りっぽい臭いが鼻を通るも、体を癒す風だった。
*

2010*10*11 Mon
23:54

プロローグ

明治後期。

「かーごめかーごめ、かーごなかのとーりーはー」

村に住んでいる着物を着た六人の幼い少年と少女が手を繋いで輪になり、真ん中にいる一人の子供を中心に歌を歌って回る。

「いーつーいーつーでーあーうー、うしろのしょうめんだーあれー」

歌が終わると回るのも終える。そして輪の中心にいる子供は自分の後ろにいる人物の名前を当てる。当たれば位置の交代で輪に入れるが、ハズレれば遊びはその状態を維持する。

「―――ちゃん?」
「違うよー」

真ん中で目を隠し、しゃがんだ子供が名前を宣言するもハズレ。輪に戻ることはできなかった。子供たちがもう一度回り出そうとするや否や、

「楽しそうだね」

と一人の男がやってきた。
男はダークスーツを着て、黒い帽子を被り、真っ黒の手袋はめているという黒を強調した姿だった。

「……おじさん誰?」

輪になっていた一人の男の子が恐る恐る尋ねる。全身黒い怪しい人物だ、警戒せざるをえなかった。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。おじさんは歌謡いなんだ」

歌謡いとは読んで字の如く歌を歌うのを専門の職業とする人のこと。しかし、こんな黒い怪しげな男が歌謡いとは到底思えない。子供たちはそれぞれが警戒し、助けを呼ぶなり逃げるなりの算段をしていた。だが、男からは思わぬ言葉が飛び出した。

「君たちに面白い遊びを教えてあげようと思ってね」
「遊び?」
「そう、遊びさ」

黒い男はスーツのポケットから小さな木の箱を取り出した。そして、箱を開けると悲しい、哀しい旋律を奏でだす。箱の中身はオルゴールだったらしい。

「この音楽に乗せてこう歌うのさ。―――ってね」

男はオルゴールに合わせて軽く途中までの歌を歌う。

「それだけなの?」

子供たちが疑問の眼差しを男に向ける。ただ歌うだけの単純でつまらないもののどこが面白いのか。新しい遊びに少なからず期待していただけに、落胆を隠せない。そんな子供の様子に男は、

「騙されたと思ってやってごらん。じき、楽しくなってくるよ」

など薦めるだけの言葉を発する。
子供たちは教えられた通り歌を歌うが、すぐに中断する。一度聞いただけの歌をすぐ覚えられるほど簡単な歌ではなかった。見兼ねた男は子供たちに歌詞を書いた紙を渡した。子供たちは紙を取り合いながらも、段々歌を歌うようになっていった。男はその光景に満足し、にたあと不気味な笑顔を残してこの場を去った。

数日後、村で暴動が起こる。
村人は狂った鬼人のように互いに殺し合い、家々に火を放ち、全てを無に帰すまで村の中で戦を続けた。それ以降村は封鎖され誰も立ち入ることができなくなり、大正に名が変わるとダムの底へ姿を消した。
*
本日のオタク名言
何を信じてるかって?
自分を信じるしかないよね

Charlotte

by 西森柚咲
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雨宮 翼

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